お笑い芸人にとって「笑わせること」は日常であり、使命でもある。
だがその裏側に、誰にも見せない“静かな闘い”があることを、私たちはどれほど想像できていただろうか。
かつて「次長課長」としてテレビに引っ張りだこだった河本準一さん。
彼のネタに多くの人が腹を抱えて笑い、その独特の間とテンポは、時代の笑いを象徴する存在だった。
しかし、2025年初頭。
突然の活動休止。
表に出たのは「体調不良」という短い報告だけだった。
ファンの間に不安が広がる中、6月。彼は自身のSNSに手書きのメッセージを投稿し、「パニック障害とうつ病」であることを告白する。
芸人という、常に“元気”であることが求められる職業。
その中で「心の不調」を明かすという選択は、きっと簡単なことではなかったはずだ。
それでも彼は戻ってきた。
一歩ずつ、少しずつ。
そして発した言葉は、たったひと言の「ただいま」だった。
パニック障害とは──「見えない不安」との闘い
河本準一さんが公表した「パニック障害」は、突然理由もなく強い不安や恐怖に襲われるパニック発作を中心とする心の病です。
発作時には、動悸、息苦しさ、めまい、手足の震えなど、まるで命の危険を感じるような身体症状が現れます。
パニック障害は決して珍しい病気ではなく、生涯有病率はおよそ1〜2%とされています。
つまり、100人に1〜2人が一生のうちにパニック障害を経験する可能性があるということです。
また、ハートクリニックの解説によると、世界各国の研究では1.5〜5%という幅で報告されており、これはうつ病よりは少ないものの、統合失調症よりは多い頻度とされています。
特に20〜30代の女性に多く見られ、女性は男性の2〜3倍発症しやすいという傾向もあります。
指標 | 数値・傾向 | 出典 |
---|---|---|
生涯有病率 | 約1〜2%(100人に1〜2人) | ハートクリニック解説より |
世界的な有病率 | 約1.5〜5% | 同上 |
性別差 | 女性は男性の約2〜3倍発症しやすい | 同上 |
発症年齢の傾向 | 20〜30代に多く見られる | 同上 |
精神障害者数(日本) | 約614.8万人(2020年時点) | 内閣府 障害者白書 |
精神障害者のうち外来患者数 | 約586.1万人 | 同上 |
精神障害者のうち入院患者数 | 約28.8万人 | 同上 |
しかし、検査をしても身体的な異常は見つからないことが多く、周囲からは「気のせい」「考えすぎ」と誤解されやすいのがこの病の難しさです。
3つの主な症状
パニック障害には主に以下の3つの症状があると言われています。
- パニック発作:
突然の激しい不安とともに、心拍数の上昇や呼吸困難などが起こります。多くは数分〜1時間以内に自然におさまりますが、本人にとっては非常に恐ろしい体験です。 - 予期不安:
「また発作が起きるのではないか」という不安が常につきまとう状態。これにより、外出や人との接触を避けるようになることもあります。 - 広場恐怖:
発作が起きたときに逃げられない、助けを求められない状況(電車、エレベーター、人混みなど)を恐れ、行動範囲が狭まってしまうことがあります。
治療と向き合い方
治療には、薬物療法(抗うつ薬や抗不安薬)と認知行動療法が用いられます。
特に認知行動療法では、不安を感じる状況に少しずつ慣れていくことで、発作への恐怖を和らげていきます。
大切なのは、「パニック障害は治療可能な病気」であるということ。
そして、本人の努力だけでなく、周囲の理解と支えが回復への大きな力になるということが必要です。
パニック障害とうつ病──静かな闘い
そんなパニック障害を発症した河本さんは、体調不良を理由に活動休止を発表。
その後、6月にはパニック障害とうつ病を患っていたことを公表しました、
芸人という“笑い”を生業とする立場で、自身の心の不調を明かすことは、並大抵の勇気ではなかったはずです。
しかし彼は、あえてその事実を隠さず、手書きのメッセージでファンに伝えました。
「ゆっくりゆっくり1歩ずつ前を向いて進んで行ければと思います」と。
ラジオでの復帰、そして「ただいま」
活動再開の第一歩は、ラジオ番組への生出演でした。
長い沈黙を破るように、リスナーに向けて「ただいま」と語りかけた河本さん。
その声に、どれだけの人が安堵し、笑顔になったでしょうか。
また、その背景にはどれだけの勇気があったことだろうか。
SNSには「おかえり」「待ってたよ」といった温かいコメントがあふれ、彼の復帰を心から喜ぶ声が広がりました。
「タンメン」の意味と、これから
河本さんがたびたび使う「タンメン」という言葉。
これは彼の持ちネタであり、同時に“自分らしさ”を象徴するフレーズでもあります。
病と向き合いながらも、ユーモアを忘れず、少しずつ歩みを進める姿は、まさに“タンメン魂”そのものです、
今後の活動がどのような形になるかはまだ未知数だが、彼の「ただいま」は、芸人としてだけでなく、一人の人間としての再出発でもあります。
まとめ
パニック障害は決して珍しい病気ではなく、生涯有病率はおよそ1〜2%とされています。
つまり、100人に1〜2人が一生のうちにパニック障害を経験する可能性があるということです。
日本国内の正確な年間発症件数は公的統計では明示されていませんが、厚生労働省の資料によれば、精神疾患全体の外来患者数は約576万人にのぼり、その中にパニック障害を含む「神経症性障害、ストレス関連障害」が一定数含まれていると考えられています。
そんな障害が出た河本準一さんの復帰は、芸人の再始動というだけでなく、“生きる”ということの再確認でもあります。
笑いとは何か、自分らしさとは何か。病を抱えながらも、それでも人を楽しませたいという情熱は、以前よりも強く深くなっているように思えます。
彼がたびたび使う「タンメン」という言葉もまた、その“変わらない彼らしさ”の象徴です。
病とともにある毎日の中でも、笑いを忘れず、ユーモアを持ち続けるその姿勢に、多くの人が勇気づけられています。
いまこの瞬間、河本さんと同じように心の不調と向き合っている人がいるならば、彼の「ただいま」という言葉が、ひとつの希望になるかもしれません。
焦らず、比べず、自分のペースで。
タンメンのように、あたたかく、そして優しく──。