2025年6月29日。
ロサンゼルスのカウフマン・スタジアムに集まった観客は、歴史の証人となりました。
ドジャースの大谷翔平が、自己最速164km/hを計測する豪速球で約2年ぶりの実戦登板を果たし、「二刀流」としての完全復活を世界に宣言しました。
かつて“現代野球の常識”を覆した彼が、再びマウンドとバッターボックスに同時に立つ日が来るとは、どれほどの人が信じられただろうか。
2度の手術、複数のリハビリ、そして世間の声。それらすべてを乗り越え、彼は前よりも強く、そして洗練された姿で帰ってきました。
この登板は、単なる復帰試合ではない。それは人間の可能性を極限まで追求し、進化し続ける一人のアスリートの“証明”であり、“未来”そのものです。
そんな大谷翔平選手の復活劇と新しい投球フォームについて深掘りしていきます。
二刀流復活登板──663日ぶりのマウンド
2023年8月の右肘手術から約1年10カ月。
大谷選手は、ドジャース移籍後初となる「1番・投手兼指名打者」として登板し、2回無失点の好投を披露。打者としては無安打に終わったものの、マウンド上での存在感は圧巻でした。
初回、1死一・二塁のピンチで放たれたのは、101.7マイル(約164km)の剛速球。
これはメジャー自己最速であり、今季ドジャース投手陣の中でも最速記録となった。この一球が、彼の進化と復活を象徴しています。
2023年9月に2度目の右肘手術、さらに2024年には左肩の手術も経験。
通常ならキャリアの岐路となるはずのこの状況で、大谷選手は慎重かつ着実にリハビリを重ね、2025年春にはブルペン投球を再開。6月にはついに実戦復帰を果たしました。
進化に向けた取り組み──フォーム改良と“ノーワインドアップ”の選択
復帰後の大谷選手は、ノーワインドアップ投法を採用。
これは肘への負担を軽減し、フォームの再現性を高めるための選択しています。
さらに、グラブの使い方や体重移動の精度も向上し、投球フォームそのものが洗練されています。
元中日監督の森繁和氏も「進化はものすごくしている」と絶賛。
「球速だけでなく、投球の質そのものが次のステージに達していることを証明している。」とコメントしています。
ノーワインドアップ投法とは?
ノーワインドアップ投法とは、腕を大きく振りかぶらずに、静止状態からスムーズに投球動作へ入るフォームです。
ワインドアップのような大きなモーションを省略することで、動作の簡略化と再現性の向上を狙います。
- フォームの再現性が高い:
動作がシンプルなため、毎回同じフォームで投げやすく、コントロールが安定しやすい。 - 肘や肩への負担が少ない:
大きな振りかぶりがないため、関節へのストレスが軽減され、故障リスクの低減につながる。 - クイックモーションに移行しやすい:
ランナーがいる場面でも対応しやすく、牽制や盗塁阻止に有利。 - 打者にタイミングを合わせにくくなる:
モーションが小さいため、打者がタイミングを取りづらくなるケースもある
- 球威が落ちやすい:
下半身の力を十分に使いにくく、球速や球威がやや落ちる傾向がある。 - リズムが単調になりやすい:
投球テンポが一定になりやすく、打者に慣れられるリスクもある。 - フォームの工夫が必要:
シンプルな分、体重移動や腕の振りなど、細部の精度が求められる。
ノーワインドアップを採用した有名投手
- ダルビッシュ有(MLB):
日本時代はワインドアップでしたが、メジャー移籍後はセットポジションやノーワインドアップに移行。球威を保ちつつ、制球力とテンポを重視したスタイルに進化。 - 前田健太(MLB):
ノーワインドアップをベースに、テンポの良い投球で打者を翻弄。肘の負担軽減も意識したフォーム。 - 大谷翔平(MLB):
2025年の復帰登板でノーワインドアップを披露。肘の負担軽減とフォームの再現性を重視した選択で、自己最速164km/hを記録するなど、進化の証明となった。
まとめ──“人類の限界”を塗り替え続ける挑戦者、大谷翔平
大谷翔平の復活は、ただのリハビリ明けの登板ではありません。
それは「不可能」に挑み続ける者の姿勢そのものです。
球速、フォーム、リカバリー、すべてが“前よりも上”を目指して設計され、努力し、実現されました。
それは、「二刀流」という言葉すらもはや物足りない、“唯一無二”の存在への進化の道程です。
そしてこの物語は、まだ序章にすぎません。
彼の体には傷があります。
しかし、その傷があるからこそ、私たちは彼に希望を見出し、勇気をもらえるのです。
164km/hの剛速球は、単なる数字ではなく、挑戦の意思表示であり、新しい伝説の幕開けと言えるでしょう。