秘密保持契約(NDA:Non-disclosure Agreement)とは、企業が取引や業務において知り得た機密情報を守るために締結される契約のことで、機密保持契約書や機密保持契約(CA:Confidentiality Agreement)と呼ばれることもあります。
この秘密保持契約では、情報を開示する側(開示者)が指定した秘密情報を受け取る側(受領者)が適切に管理し、第三者への開示や目的外での利用を禁止することを目的とするのが一般的です。
また、企業が従業員を雇用する場合や、業務委託、M&A、技術提携などの場面で用いられることもあります。
取引金額が大きい重要な契約の場合は弁護士により作成してもらうことも多いと思いますが、企業間での取引であればどちらかの会社の法務部や、業務担当者がテンプレートをもとに作成することもあります。
秘密保持契約は必ずしも必要と言うわけではありませんが、企業が商取引を行う場合は必須とも言える重要な契約です。
この記事では筆者がこれまで知財業務を行う中で経験した注意点や、これから取引を行うために秘密保持契約を作成する初心者向けに役立つ内容を連載形式でまとめていきます。
これから企業間の取引を行うために初めて秘密保持契約を結ぶ担当者に必見です。

NDAを締結する目的

一般的に取引は二社間で契約を締結することが多いですが、取引する内容によっては三社間で契約を締結することもあります。
そのために作成される契約書が秘密保持契約書です。
秘密保持契約書(NDA)は、取引やビジネス活動を円滑に進めるために開示する自社の重要な情報を保護すること定めた契約ですが、秘密保持契約書を作成する目的は大きく次の3つがあります。
- 対象・権利・義務・条件の明確化
- 紛争予防
- 訴訟の証拠
では一つずつ解説していきます。
1. 対象・権利・義務・条件の明確化
取引を行う企業は自社のノウハウや顧客情報を取引を行う相手先の企業へ開示し、お互いがその秘密となる情報を守ることでビジネスにおける取引を円滑に行うために、何を対象としてどのような権利や義務が発生するか、またその契約期間などの条件を明確化にしたものです。
取引を行う目的や対象をしっかりと定め、それらに関して開示する情報が秘密情報であることが記載されていなければなりません。
また、秘密保持義務の期間が限定的なのか、契約を解除するまで続くのかなども明確に定める必要があります。
2. 紛争予防
NDA があることでお互いが紛争にならないように秘密保持の意識を働かせることができます。
当事者以外には情報を漏洩させてはならない「無断開示の禁止」・「目的外利用の禁止」や、適切な管理を行うことを定めた「管理義務」、故意や過失により残念ながら秘密保持を守れなかった場合に備えた「損害賠償」・「差し止め」など、契約内容や目的に合わせた義務や措置が発生することを明確にすることが重要です。
3. 訴訟の証拠
お互いが注意を払っていても問題が発生する場合はあります。
通常はお互い誠意を持って和解に向けた協議を行いますが、残念ながら和解できないほど問題が大きい場合は係争まで発展する場合もあります。
残念ながら係争となった場合は契約書が重要な役割を果たします。
秘密保持契約書は係争のために作成するのではありませんが、万が一の場合に重要な役割を果たす契約書となりますので、内容はお互い合意の上で締結するようにしてください。
NDAの二大義務

秘密保持契約を締結した当事者には大きく分けて2つの義務が発生します。
- 秘密情報の守秘義務
- 目的外使用の禁止
1. 秘密情報の守秘義務
秘密保持契約を行った当事者は、相手先から開示された秘密情報を第三者に漏洩させないように、適切な管理を行う義務があります。
そのためには、相手先から開示された情報が秘密であるか否かが明確でなければなりませんので、通常は秘密である旨を表すために図面や書類には「秘密」や「CONFIDENTIAL」といった表示を行います。
また、秘密情報を取り扱う経営者や担当者から適切な管理者を定め、不正な情報の持ち出しやコピーをしないような運用ルールを定める必要があります。
企業にとって信頼の失墜や経済的損失を招く深刻なリスクとなるため、法的な守秘義務を相手に(相手からは自社に)課すことでリスクを軽減し、万が一の時には損害賠償請求が可能となります。
2. 目的外使用の禁止
秘密情報は何らかの目的達成のために開示されるはずです。
その目的以外のことに開示された秘密情報を使ってはならないことを定めるのが「目的外使用の禁止」です。
開示された情報が相手先にとって有益であればあるほど、本来の目的以外でも有益な場合があります。
しかし、NDA においては目的達成のために開示される情報はそれ以外の目的のために利用してはなりません。
目的外使用の禁止については意外と忘れがちで類似製品などに利用してしまいそうになりますが、本来の目的外に使用すると「つい」や「うっかり」では済まされない場合がありますので、NDA を締結する当事者はしっかりと肝に銘じておく必要があります。

秘密保持契約(NDA)の作成の流れ

秘密保持契約(NDA)を作成するタイミングは、秘密情報を開示する前が基本です。
商談や打ち合わせの開始時点、または業務委託や技術提供に関する具体的な話し合いを始める前には締結することが望ましいですが、初回の商談前に締結できることは稀でしょう。
実際に初めて商談する時点では、相手先がどのような取引を望んでいるか確認できていないため、初めての商談ではどのような取引を望んでいるかを伝えた後、改めて NDA を契約してから具体的な内容を開示する旨を伝えることが現実的です。
特に、情報漏洩のリスクを回避し、信頼関係を確立するためには、秘密保持契約書の作成方法を正しく理解し、早い段階で契約を結ぶことが重要です。

NDA 作成時の注意点
契約上の言葉の意回しは特許文書ほど難しくはありませんが、言葉の解釈などを間違うと万が一の際に不利になったり、思った対応が取れないことになりかねません。
特に日本語は世界一曖昧な言語とも呼ばれるため、出来るだけものごとを明確にできるように、日常会話のような表現は避ける必要があります。
そのため、堅苦しい表現が多くなりますが、言葉の意味を理解して作成や確認を行なってください。
作成ポイント
初めて NDA を作成する場合は、何に注意して良いのか分からないでしょう。
自分たちで作成する場合もそうですが、取引先が作成してくれる場合は手間が省ける反面、相手先が有利となる条件で記載してくることも多いので、次のポイントに注意して条項に盛り込みます。
- 秘密保持義務を負う対象者
- NDA の目的
- 秘密情報の定義
- 秘密保持義務の発生日と契約期間
- 知的財産と成果物の帰属
- 違反時の賠償責任
詳しい内容は以下のページで解説していますので参考にしてください。
記載する条項
NDA には相手先によって記載がなくても問題ない条項と、必須となる重要な条項があります。
また、相手先との合意が取れない内容については記載できない場合もありますが、できるだけ自社が不利とならないような内容を定めておくことが望ましいです。
一般的に以下の内容は NDA の条項に含めることが望ましく、あらかじめ自社に適したテンプレートを弁護士監修の元に作成しておき、必要に応じて内容を書き換えるようにしてください。
新たな取引の度にイチから作成すると抜け漏れや表現の揺らぎなど、チェックに時間が掛かります。
- 目的
- 秘密情報の定義
- 適用除外
- 第三者への開示の禁止
- 目的外使用の禁止
- 秘密情報管理
- 秘密情報の返還・廃棄
- 成果物の取扱
- 差し止め・損害賠償
- 契約期間
- 合意管轄

適用される法律とNDAの関係

秘密保持契約には適用される法律があり、その内容によっては法的な争いが生じた場合に大きな影響を与えます。
国内取引においては、不正競争防止法が営業秘密の漏洩や不正利用を規制しており、一方で海外取引では関係する国の法律や国際条約を考慮する必要があります。
特に、日本国内でのNDA締結では、この法律が適用されることが多く、営業秘密の条件である「有用性」「秘密性」「合理的な管理」が満たされているかどうかが重要視されます。
さらに、電子契約が普及する中で電子署名法などの関連法規も考慮される場合があるため、秘密保持契約書の作成方法について適切に理解することが求められます。
なお、大企業が中小企業に対して不当に制限された契約条件などを要求してくる場合は、独占禁止法に抵触する恐れがありますので注意してください。
弁護士を活用したNDAのチェック
NDA を正確かつ有効に活用するためには、弁護士によるチェックを受けることが望ましいです。
特に、取引内容が複雑な場合や契約金額の大きな国際取引である場合には、法的リスクを十分に検討する必要があります。
弁護士による契約書のチェックを受けることで、秘密情報や条項の記載が適切かを確認でき、不備が生じるリスクを最小限に抑えることが可能です。
また、弁護士と相談することで、適用される法律や契約違反時の対応策について具体的なアドバイスを得られるため、自社にとって最適な秘密保持契約書を作成できます。

まとめ

秘密保持契約(NDA)は他社との取引を円滑に進めるために開示する自社の重要な情報を保護すること定めた契約です。
取引で具体的な内容を開示する前には、自社の秘密情報を第三者に漏洩させないためや、曖昧な内容のまま進めてしまうことで後々のトラブルを予防し、万が一、紛争になった場合でも合意内容を証明できる重要な契約です。
- 対象・権利・義務・条件の明確化
- 紛争予防
- 訴訟の証拠
また、秘密保持契約を締結した当事者は第三者に情報を漏洩させることなく厳密に管理し、開示された秘密情報を目的外のことに使用してはなりません。
- 秘密情報の守秘義務
- 目的外使用の禁止
そのためには、必要となる条項をしっかりと定め、国際的な取引や金額の大きな契約は弁護士によるチェックを受けておくことが望ましいです。
また、契約が終了したら秘密情報を返還・破棄する(させる)ことも重要です。
しかし、初めて秘密保持契約を結ぼうとする方も臆することなく、この記事を参考に作成して頂ければ幸いです。
但し、取引内容については自己責任でお願いします。
このサイトは Xserver で運用しています。
気になる人はチェックしてみてください。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
ではまたね〜。